平成14年8月20日 共同記者会見発表内容
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「スギ等による異樹種構造用集成材の日本農林規格の適合性の認可について」
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山佐木材株式会社 代表取締役社長 佐々木幸久
中国木材株式会社 代表取締役社長 堀川 保幸
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平成14年7月29日付で、山佐木材株式会社下住工場、および中国木材株式会社郷原工場の2工場が、JAS認定工場としてスギとベイマツを混用する構造用集成材の製造の認可を受けたことをご報告させていただきます。
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1 概要
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一般に市場に流通している構造用集成材(管柱を除く)は、曲げを受けることを対象とし、強度が高いと推定されるラミナが意図的に外層(中立軸から遠い位置)に配置されている。この仕組みは、外層に強度の強い樹種を配置し、強度的に弱いとされるスギを内層に配置することにより、集成材用のラミナとしてスギを使用する道を広げることに有効である。
構造用集成材の日本農林規格では、異なる樹種の混用を認めてはいるが、技術的に難しいため認定された事例はない。そこで平成11年度、12年度の2カ年に渡り、林野庁の補助事業である「ハイブリッドティンバー製造システム等開発事業」(事業主体:(社)全国木工機械工業会、全国木造住宅機械プレカット協会)において産学官が一体となってスギ短尺材を利用した異樹種構成の生産・品質・性能等の課題に取り組み、そこでの成果をベースに、財団法人日本合板検査会にJAS認定工場における「異なる樹種を混用する構造用集成材」のJAS品としての製造の適合性の審査を申請、この度2工場において認可された。
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2 認定を取得した企業と製造工場
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A、山佐木材株式会社
代表取締役 佐々木幸久
住所:鹿児島県肝属郡高山町前田2090
認定を取得した製造工場 下住工場
住所:鹿児島県肝属郡高山町前田2090
内容:構造用集成材(大断面、中断面、小断面(含む低ホルムアルデヒド))
注:スギのひき板については一部下記の工場で製造されたものを受入。
論地工場
住所:鹿児島県肝属郡高山町後田636−1
内容:構造用集成材(中断面、小断面)用のラミナ製造
B、中国木材株式会社
代表取締役 堀川 保幸
住所:広島県呉市多賀谷3丁目1−1
認定を取得した製造工場 郷原工場
住所:広島県呉市郷原町字一ノ松光山626−2
内容:構造用集成材(中断面、小断面(含む低ホルムアルデヒド))
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3 開発の背景
(1)社会的背景
森林から生み出される木材は、持続的に再生産可能な資源であり、かつ地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を体内に吸収し、大気に酸素を供給するという重要な役割を演じている。特に人間が木材資源を得るために造林した人工林は、その営みを考えたとき、造林ー森林保全ー木材適正利用の3要素が共存・循環して初めてエコバランスが保たれ、その役割を果たすことができるといえる。しかし我が国で使われている木材の自給率は、代替木質資材の普及と輸入製品に押され、ここ数十年で減少の一途をたどり、現在は20%にも満たない。成熟期に入った九州産のスギを中心とした人工林も、伐採しても供給可能量に見合った市場が見込めないため、このままでは森林のエコバランスを保てなくなることが懸念されている。
こうした地域材を活用した製品の需要拡大を図るには、品質と価格が市場で受けれられることが必要となる。しかし地域材の代表格であるスギは消費者の十分な信頼を得るレベルには至っておらず、また今後スギの有効的活用手段として期待される構造用集成材においても、公共建築物への利用を中心にそのシェアを延ばしているものの、ベイマツをはじめとする外材に対し強度が低く、しかも割高なため国際競争力を持っていないのが現状であった。
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(2)共同開発の経緯
そのような状況の中、鹿児島を拠点とする山佐木材株式会社では、原木単価の安価なスギの曲がり材に着目、丸太を1mに短く切って曲がりの影響を解消し、それを集成材のひき板として利用することにより、スギ集成材のコスト削減を図り、市場競争力のあるスギ構造用集成材が生産できないか模索していた。一方、ドライビーム(構造用ベイマツ乾燥製材)を開発、集成材も生産し、成熟期のスギにも注目している中国木材株式会社では、近年の代替木質製品の普及により、今後桟木や野地板の需要が見込めないことから、これらベイマツ小割材の新しい使用用途を課題としていた。しかしこの小割材は辺材から製材されるため、強度等級が高いことに着目、高い強度等級の集成材のひき板への利用とともに、スギと組み合わせることによりその強度的弱点を補充し、スギの需要拡大に貢献できるのではないかと考えていた。スギとベイマツの異樹種混合集成材は、先述した社会的背景を踏まえ、両社の思惑が巧く結びつき共同開発が実施されるに至った。
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4 開発から認定までの経緯
(1)開発事業と基準法改正の動向
スギ短尺材を利用した異樹種集成材の開発は、平成11年度、12年度の2カ年に渡り、林野庁の補助事業である「ハイブリッドティンバー製造システム等開発事業」(事業主体:(社)全国木工機械工業会、全国木造住宅機械プレカット協会)により実施した。開発にあたっては、多数の研究者の方々に事業委員として加わっていただき、実現性と顧客満足度に必要な信頼性を重視した。当初は建築基準法の改正の目玉になると言われていた性能規定化の動きに注目しつつ、巧くその流れに乗れることを期待したが、事業期間中、その流れが具体的につかめなかった(建築基準法第37条に関わる木質建築材料に対する建築指定材料に関する告示第1539号は平成13年10月15日から施行、構造用集成材の許容応力度に関する改正、告示第1214号は平成13年6月12日から施行)ため、集成材の基本となる製造基準であり、かつ基準法とリンクしているJAS規格への適合性が認められることにより、市場に送り出せる体制をまず整えることとした。
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(2)日本農林規格取得までの流れ
JAS規格への適合性の認可の手続きは、財団法人日本合板検査会(以下、合板検査会)に対する、申請事項の目的と内容の説明からスタートし、以下のようなスケジュールで審査された。
平成13年2月23日 JAS認定審査予備委員会開催
主な内容:異樹種混合集成材の申請に関する議題が初めて討議され、構造用集成材のJAS規格として適用の範囲と合致していることを確認し、構造用集成材JAS規格に規定されている定義のいずれかに該当していることを条件に基本的に申請を受けることを決定。
対応:これを受け、審査の基準に対応できるよう検討、補助事業のデータをベースにした資料を作成。
平成13年6月29日 JAS認定審査予備委員会開催
主な内容:課題をピックアップ。基準法との関連について確認。分科会開催が決定。
対応:申請内容が適正製造基準にどう対応しているか整理、強度データについては補助事業での試験データを基に整理。
平成13年10月19日 第1回分科会
主な内容:申請内容が適正製造基準に対応しているか確認。申請者から実大実験の内容について質疑。製造管理については次回検討。
対応:質疑に対する回答を受け、実大強度試験を実施。認定を受ける工場の品質管理マニュアルを作成。
平成14年2月1日 第2回分科会
主な内容:基本的に承諾、次回JAS認定審査予備委員会で報告されることが決定。尚、当該申請に限定されることを付記された。
平成14年6月26日
JAS認定審査委員会にて合格
平成14年7月29日
今回申請された内容に限りJAS表示する旨の届出が受理される。
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5 取得した集成材の概要
この度、JAS認定を取得した集成材の概要をまとめた。
(1)ひき板にはベイマツおよびスギを使用。
(2)構成は表1の構成により異等級構成構造用集成材(対称構成)とし、
強度等級はE105−F300とする。
(3)使用環境1とする。
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6 日本農林規格を取得する上での課題
(1)ラミナの樹種構成
異なる樹種を混用する場合は、ラミナ全数に対して機械等級区分を実施し、さらに初期試験を行い、接着性能に支障がなく、割れまたは変形が軽微であることを確認する方法をとった。
(2)ラミナの等級構成
ラミナの曲げ試験、引張試験を実施し、そのデータを基にシミュレーション計算によって強度等級を推測し、圧縮・引張・曲げの実大実験を実施により、その適合性と、推測値および実験値が基準値を下回らないことを確認した。
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7 その他の課題
前項目以外、以下の点についても実験等によりその性能を確認した。
(1)せん断基準強度
ラミナのせん断試験、同一ラミナ構成集成材のせん断実験を実施し、そのデータを基にシミュレーション計算によって強度等級を推測、実大実験結果を踏まえ、推測値、および実験値が基準値を下回らないことを確認した。
(2)異樹種間の接着性能
ベイマツとスギラミナの異樹種間のブロックせん断、煮沸はく離試験と減圧加圧試験を実施し、同一樹種間の性能と同等の性能が得られることを確認した。
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8 価格
価格は中小断面についてはベイマツ集成材と同等の価格帯を設定、大断面についてはそのサイズにより原価計算を基に提示するものとした。
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9 今後の展開
この度のJAS規格の適合性認可の取得をステップにして、本基準をベースとした品質管理を大前提として、建築基準法令の下、独自の構成による集成材の開発を計画している。また本開発段階で「構造用集成材」について改めて学んだことが多かったが、このことは申請会社2社にとって大きな収穫であり、この財産をこれからの商品開発に様々な形で活かせるものと確信している。
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10 謝辞
本製品の開発にあたり、多くの研究者の方々、また認定機関関係者の皆様のご協力がなければ、JAS規格の適合性認可は取得できなかったのではないでしょうか。深く感謝申し上げますと共に、引き続きご支援の程、よろしくお願い申し上げます。
・林野庁プレスリリース
・中国木材株式会社
・■ 概要説明1 Adobe Acrobat文書(*.PDF形式)(33Kb)
・■ 概要説明2 Adobe Acrobat文書(*.PDF形式)(65Kb)
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